宇津奏子建築設計事務所
utsu kanako architectural design studio
台のある研究者の家 / Platform for researcher
2024.1
Context
約40坪の既存住戸は、平成の初めに作られた総戸数153戸の多摩ニュータウンの団地の中にある、二世帯住宅である。玄関から入って廊下が左右に伸び、それぞれにキッチン・浴室・ダイニング ・居室がある構成で、ファミリーとその両親に向けた「3世代住宅」とされていた。住み手は、当初「3世代」の一番下であった30代の研究者で、職場への利便性もあり、数年前から一人暮らしをしていたが、ほとんどの部屋は使用していない状態であった。二人暮らしとなるため、住環境を整えつつ、普段は自宅兼オフィスとして使用しながら、学生が集まってサテライト・ラボとして使ったり、友人と集まったり、両親や親族が集まったりするような、多様な使い方をしたい、というリフォームの計画である。
photo by 中山保寛
Program
打ち合わせを進めながら、必要な諸室を確保すると、約60㎡の大きな空間ができることがわかった。大きな空間の中で「多様」な使い方をするためには、すぐに移動でき、買い替えのできる既製品の家具を配置して構成することがもっとも簡単だと思われたが、住み手と意見を交わしていくうちに、むしろ簡単に買い替えたりすることができない、重さのある物体がある方が、これからそこを拠点としていくイメージと一致していることがわかった。
また、この計画を進めていく中で、家族の生活のイメージを住み手とよく話し合った。例えば、一般的なダイニングテーブルの大きさは、食事をするのにちょうど良い。ただしそれ以外の時間には、椅子座でテーブルを囲んで座るという機会はあまりない、別の場所にある「リビング」へ移動して「くつろぐ」ことになる。研究者である住み手にとっての「仕事」も、全く別の空間で行うより、生活の一部となる方が、自然なことのように感じられた。食べること・くつろぐこと・仕事をすることを、それぞれ場所を変えてすごすのではなく、一つの緩やかな流れの中ですごすための空間を目指したいと考えた。
Plan
そこで、この広い空間を背景として、「建築」よりは軽いが、既製品の「家具」よりも重い、様々な行為が誘発されるような、組み替えられる「台」を作ることにした。
最初は、大きなテーブルのようなものがあれば、想像できる様々な生活のシーンを受容出来るのではないかというイメージからはじまった。仕事の道具を片付けなくとも、自分が移動すれば、同じ空間で食事をすることができる。将来家族が出来た時にも、食事の準備をする、仕事をする、絵を描く、1つの同じ空間でそれぞれの時間を過ごすことが出来る。人が来た時も、座る位置によって相手との距離を自由にきめることができる。一箇所に集まることもできるが、誰かが仕事をしている一方で、誰かが本を読んでいてもよく、同じ空間にいながら、少しだけ距離をとって座ることができる。
当初は普遍的な「台」に、人が寄り添うような生活をイメージしていたが、「台」そのものが分かれ、高さを変えて組み替えられる構造とすることで、「台」の方も生活にあわせて変化させることが出来たら、もっと様々なシーンが許容できるのではないかと考えた。
「台」は、3種類の天板が7枚、3種類のフレームが13台、それと2本の脚で構成した。天板とフレームには数箇所ずつネジ穴があり、好きな位置で固定することが出来る。700mmでテーブルの高さ、半分の350mmでローテーブルやベンチの高さ、1050mmでカウンターやスタンディングデスクとして使うことが出来る。こうやって暮らしたいという理想に合わせて組み替えることで、生活が空間に寄り添い変わっていく。
Parts List
建築側は、できるだけニュートラルな空間を目指し、天井・壁ともに珪藻土塗装とした。調湿効果のある珪藻土塗装は、ローラー塗装とすることで凹凸を持たせ、柔らかなテクスチャーとしている。空間に面する造り付けの家具や扉の面材も壁と同色とした。ダイニングと居室を繋ぐ引戸はフルオープンすることで、大きな一体空間とすることが可能である。既存を残す部分と新しく作る部分が複雑に取り合う難しい施工であったが、現場の丁寧で細やかな仕事により、空間が完成した。
これから住み手が過ごしていく未来に合わせて、「台」が、生活の土台として、また家族の舞台として、様々に変化していくことを期待している。
Setting Image
所在地
主要用途
竣工年
規模
構造
延床面積
主要内装仕上
施工会社
設計期間
施工期間
東京都多摩市
専用住宅
2024年1月
既存住戸 5階建
RC
132.49㎡
天井/珪藻土塗装
壁/珪藻土塗装
床/オーク複合フローリング
株式会社丸二 担当/東
2021年10月〜2023年8月
2023年8月〜2024年1月